俺妹11・12巻も読んでみた(どうしようもないことなんだよ)

俺妹アニメ2期ラスト4話をみて人物の動きが不可解でもやもやした話をしました。

もやもやした人は原作を読みましょう。これはよくできているし、アニメでカットされたエピソードがあると、まるきり違う光景がみえてきます。

またむちゃくちゃネタバレね。

桐乃はノープランどころか考え抜いている

まずもっていちばん引っかかった、荒木山(原作では近所の公園)での麻奈美・桐乃バトルのあとですね。アニメではカットされているけれど、桐乃は麻奈美に「期間限定オチ」を伝えようとして京介に止められるのです。

長年の遺恨はあるから麻奈美と喧嘩はしたいが、しかしこの想いは叶わないものと割り切って、降りてしまう用意をしていたわけですね。11巻の昔語り(これもアニメで大幅カット)で、麻奈美とだいたいのところは和解できていて、ただ気持ちの整理に一度喧嘩させてくれという感じです。ずいぶんサバサバしとるなあ。

まあそもそも押上の一夜だって勢いでプロポーズOKしちゃったあと、ホテルに戻るころには二人はすっかり正気に戻ってしまっていた、とくっきり京介が叙述してしまうし、後でこのときに決めたとされる期間限定オチも桐乃が考えていたと語るので、アニメで二人は戸惑っているなーと読み取るのよりよっぽど二人は冷静だなとわかるわけです。

まあ、そうじゃないと小説の場合情景がみえないのでちょっとエロ期待する読者いるってのもあるだろうけど。そういうんじゃないんだよ。

しかし、京介は一体なんだって桐乃の種明かしを封じたのでしょう。小説内ですら麻奈美を失ってまであえてすると言っています。アニメみてここだけみるだけではまだ不可解ですが、そこで11巻があるわけです。

原作だけに登場する櫻井の役割

11巻の昔語り、田村家に泊ることになった京介・桐乃と麻奈美は3年前の話をします。アニメ13話に対応する話もありますが、より重要なのは、櫻井秋美をめぐるエピソードですね。これはこれで重いんだ。これ、ちょっと仕立て直すだけで、「聲の形」みたいなドラマになるんじゃないかと思うくらい。あまりに重いので、アニメから割愛されたのは無理からぬことだと思います。

余談だけすると、櫻井をかぐや姫になぞらえているのはちょっとぐさっときました。かぐや姫と呼ばれたのは黒猫だけではないのです。ゲーセンで出会うことも含め、なんとなく櫻井は黒猫の影のようでもあります。

ともあれ、ちょっとこれまで10巻のラブコメからは唐突なエピソードを通じて、「この世には、仕方ないで済ませていいことなんざ一個だってねえんだ」という口癖で3年前の桐乃から見てカッコよかった京介が、おせっかい、自信過剰、他人にあおられやすくて他人のためと思い込んだら止まらない、といった性格で、これが第1巻の桐乃の人生相談からはじまる一連の物語でまた蘇ってきている、実のところ麻奈美と桐乃はしょうがないなあとおもって見ている面もあるということが示されます。

これがあるからさっきの京介の行動が理解可能になるわけです。

櫻井のエピソードとエピローグ最後の麻奈美のセリフ(アニメでは荒木山の喧嘩で始めて出てくるけど、一人語られると正論ではあるが呪いのようでもある)、あとがきのあとの12巻プロローグは、やっぱり巡航高度を捨てて、嵐の中の降下を始めたみたいなもんですよね。

で、櫻井は小説では「ごめん、俺、好きなやつがいるんだ」で振られる1人目でもあります。せっかく願いをかなえてもらったのに、かぐや姫は月に押し返されてしまうようです。

仕方ないで済ませられないが、でもどうしようもない

メイドコスのあれや、黒猫失踪事件やら黒猫のあやせへの啖呵、ほとんど黒猫が煽っていますが(そのことも誤読しようがないように、麻奈美と加奈子が11巻エピローグでバッチリ語っていますね)あれやこれやを通じて、京介は桐乃の想いに気づいていくわけです。

どうしようもないのはわかっているが、わかってしまったものは決して気味悪がったり馬鹿にしたりしないし、仕方ないでは済まさない。

まあ妹を守る兄の愛なのは間違いないけれど、無私の愛だよね。エロないわ。

そう思うと、荒木山(原作では近所の児童公園)で麻奈美を捨ててまで桐乃をとったように見えるわけだけれど、「俺は、妹が、大好きだぁぁっ」というセリフ、2巻であやせに苦し紛れに言ったのと基本同じなんですよね。場所だってあやせと会ったのはアニメでは幕張船溜跡公園ですが、原作では同じ近所の公園です。

苦し紛れなのだけれど、「仕方ないでは済まさない」ために、とことん追求してやる、そういう無私の狂熱が、桐乃のプランすらぶっちぎる、「終わっちゃったら、あんたには何も残らないのに」の底にあって、それは櫻井のエピソードでそんなもんだと思えるようになっているわけです。

で、とことん追求しても、どうしようもないことを通じて、どうしようもないと示す、たしかに3年前の桐乃の想いは、そのくらい本気でぶつかれば、成仏するのかもしれんなあ、と思いました。なにせ「忘れちゃったら、あたしがあたしでなくな」るってのは相当な呪いですよ。

追記1:「無私が集まってできた悲劇」と再設定された喜劇

京介も無私なら、麻奈美も自分よりみんなの幸せを優先して事態をエスカレートさせてしまう。黒猫だって同じようなものです。桐乃は「チャンスはたった一度だけ」だからずーっと表面上は理不尽不機嫌をするしかなかった。でも、周囲が無私でその想いを処理できるまで待ってくれたわけですね。

しかしこれは相当な不安定解で、だれかにほんのちょっとの私心があればこうはならない。飛行機の着陸のたとえをずっと使ってきたけど、スペースシャトルだよこれは。たとえば、「俺の後輩がこんなに可愛いわけがない」が本線にひけをとらない存在感をもつのはそういうわけなんですね。そして、不安定解だけど、桐乃の気持ちを押しつぶさない条件では、これくらいしか着地しようがないというメタレベルの苦しさが、12巻の語り部としてのメタ言及にあふれています。

最初はそんなんじゃなかったんだよね。2巻読み返すと、まあ危ういながら、このプロットはたんに面白がる材料でしかなかった。まあしかし、小説は始めるより終わるのが難しいって、そういうことかな。

追記2:「絶対馬鹿にしない」

京介の動き、1巻最初の人生相談で、桐乃が趣味を明かして「絶対馬鹿にしない?」ときかれて生返事したことを、ずっと12巻にわたって貫徹しているだけともいえますね。麻奈美にちょっと待ってくれなんていったら、桐乃の想いを軽くみたことになってしまうから、それはできないってことなんですよ。ロマンチックではなくなるから採られなかったんだろうけど。

なんかようやく腑に落ちた。あとは黒猫ifを安心して待つよ!